洋書コーナー

”The Vanishing Half” by Brit Benett

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⭐️⭐️⭐️⭐️ (4スター)

今回は今年の夏あたりにブックチューバーの間で話題になっていた本。”The Vanishing Half” by Brit Benettです。BLMムーブメント真っ只中のアメリカで出版されたこの本はそのタイミングと肌の色やアイデンティティについて深く考えさせられる内容により、ベストセラーになりました。

話の大まかな内容は南部の小さな村(町?)に生まれた双子の姉妹、デズリーとステラ、またその子供達の人生が1950年代から90年代にかけて複数の視点から語られています。デズリーとステラは黒人ですが、肌の色が明るい黒人で、肌色の明るい黒人によって形成された村で16歳まで過ごします。小さな村に嫌気のさしたデズリーはステラを誘って家出をし、二人でニューオーリンズに引っ越します。そこで、タイピングが得意なステラはデズリーに説得され、黒人ではふつう雇ってもらえないだろうという秘書の仕事に応募し、白人と間違われ、採用されます。仕方なく白人を演じていたステラですが、いつのまにかそれが普通となり、デズリーとステラは全く違う人生を送っていくことになります。

星は4つです。この本には人種差別、同じ人種内での差別、セクシュアリティーなど数々の問題点が入り混じっており、色々な意味で考えさせられる本でした。

まず、最初に驚いたのが設定で、双子が生まれたこの村は意図的に肌の色が薄い黒人だけで形成された村だという点でした。初めて聞いた設定だったので最初はちょっと混乱しましたが、黒人であるというだけで殺されてしまう世の中で肌の色を薄く保つということが重要なテーマであったことが伺えます。ちなみに本を読み終わった後に作者のインタビューを聞いたのですが、この本のインスピレーションは彼女の母親がこの様な村が実際にあったというような話を作者にしたことがきっかけだったようです。

そして白人として通用してしまうほど肌の色が薄い双子のふたりが、ひとりは白人として、もう一人は黒人として生きていくという大変興味深いテーマでした。ステラは白人として生きていくと決めたと同時に自分の過去全てを捨てて生きなければいけないし、いつバレるかという不安から周りの誰とも、自分の家族とさえも心を割って接することができません。これは本当に辛いことだと思います。嘘の人生を生きるということは精神的に常に緊張して気を使わなければならないからです。

現代でもユーチューブなどで画面上偽りの自分を見せている人がたくさんいて、そうゆう人たちはやはり数年すると精神的に疲れてしまって、続けることができなくなるというケースも多々あります。家族にも本当の自分をさらけ出せないステラの葛藤はそれ以上だと思います。芸能人などもファンが勝手に作り上げた理想と自分の本当の姿との現実のギャップに疲れる時があるのではないかと思います。

話が少しずれてしまいましたが、アメリカでは今年BLMのムーブメントが起き、たくさんの人がこの問題に対して深く考える機会を与えられたと思います。私もこの件に関してはよく考えるのですが、結局アメリカに住む黒人でない私にとって本当の意味でこの問題を理解し、意見をすることは大変難しいことだなと思います。アメリカに住む黒人は歴史上、先祖代々白人に虐げられ、差別を受けながら生きてきました。その恐怖やフラストレーションは世代を超えて受け継がれ、ブラックアメリカンと呼ばれる彼らに現在も根強く残っているとおもいます。

世代を超えて差別され続けた経験のない多くの人たちが彼らのことを批判するのは簡単ですが、黒人は現在のアメリカでも個人またはシステム上差別を受けているのは現実だし、彼らは黒人というだけですでに全く違うスタート地点に立たされてしまっていると思うのです。先祖代々虐げられた歴史は現在も黒人の心の中に生きているし、自分が黒人だというだけで毎日毎日些細なことに気を使って、常に心には世の中の不公平への恐怖と不満を持ちながら生きていくのがどれほど辛いことそして疲れることなのかはきっと当の本人達でないとわからないと思います。

名前は忘れてしまったのですが、少し前にみた映像で、70年代ぐらいにアメリカの小学校で差別に関する実験の様なことをしていて(詳しくは覚えてないのですが)、先生が『今日から目が茶色の子はいい子で、目が青い子は悪い子です』という様なことを言って、その日から数日(?)茶色の目の子はなにをしても褒めて、青い目の子は何をしてもダメな子だと言うというようなことをしていました。これによって子供達の振る舞い方がどんどん変わっていき、ダメだダメだと言われた子供達は本当に自信を無くし、自分がダメな子供だと思い込んでしまうのです。本当にたったの数日でこうなってしまうということは世代を超えて毎日毎日差別されてきた人たちはどうなってしまうのかと何だかとても怖くなりそして悲しみや怒りも湧き上がってきました。

現在起こっているBLMムーブメントはこの日々の小さな不満や怒りや恐怖や不平が重なって爆発したものの様に思います。マーチンルーサーキング、90年代始めのロスアンジェルスの暴動など今までにも差別反対のムーブメントがありましたが、それでもまだまだこの問題が根強く残っていることに心が痛みます。

私が本当に彼らの心の痛みを理解することは実際に経験しない限りできないけれど理解できる様に努力することはできます。この様な本を読むことにより、私の理解力を増やしてもっとこの様な問題について考えていきたいと思いました。そしてこの様な本が売れることにより、今までこの問題をあまり考えたことのなかった人や違う考えを持っていた人が差別された側に立って考えられる様になればいいなと思いました。

BLMについて話を始めると感情的になってしまい、キリがなくなってしまうので、今回はこの辺で本の話に戻したいと思います。

色々な問題提議で考えさせられる素晴らしい本なのですが、なぜ星が4つかというと、話の進みが少しゆっくりすぎる感があったのと、時間や話し手が急にあちこちへ飛んだりするので、ちょっと混乱することが多々あったからです。もっと大きな話にしてもいい感じの話がさらっと数行でかかれていたりして、『あれっ?これってこのあとどうなったの?』と思った場面が何回かありました。決して短い本ではないのですが、これだけの内容と世代を描くにはもっと長くしないと細かくは書けなかったのかな?もしくは私が細かく知りたい部分と作者が細かく書いた部分が異なっただけかもしれませんが。

エンディングは賛否両論あるようですが、私はこれでよかったと思います。この終わり方の方が現実味があると思うからです。

とにかく色々と考えさせられる内容だし、表現も文章もとても綺麗に描かれていると思うし、キャラクターもしっかりと作り上げられていたし、家族の葛藤的なお話が好きに方にはぜひおすすめしたい本です。

作者はこれが2作目で1作目は”The Mothers”という本でこれもいいと評判なので機会があれば読んでみたいと思います。

日本語の翻訳版はまだでていないみたいですね。

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