“Born A Crime” Trevor Noah
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️(5つ星)
今日は南アフリカ出身のコメディアンTrevor Noahの自伝”Born A Crime”のご紹介です。Trevor Noahは大好きなコメディアンでよくスタンドアップコメディーを見たりしていたので、彼が南アフリカ出身で、アパルトヘイト下では許されていなかった白人と黒人の間に生まれた子供であり、貧しく育ったということは知っていたし、お母さんもかなり強烈なキャラクターだということも知っていたのですが、舞台の上ではもっと面白おかしく話している感があって、私の中では勝手に厳しい環境の中で生まれ育ったけど幸せに育ったんじゃないかなという想像をしていたのですが、本を読んでみたら彼の生い立ちや南アフリカのアパルトヘイト下またはその直後の状況などは本当にひどいもので笑えない部分もたくさんあり、いろんな感情が湧いてきてたくさんのことを考えさせられました。
あらすじは自伝なので、彼の生まれた時からコメディアンになるまでの生い立ちを描いたもので、彼が生まれ育った時代はアパルトヘイト下またはその直後だったのでその時の状況など私たち外部のものからは見えないところも書かれており、南アフリカの歴史の一部を支配する側からでなく、されている側からの視点で知ることができよかったと思いました。
星は5つです。この本はいろんなものが詰まっていて、笑いあり、涙あり、怒りあり、絶望感あり、悲しみあり、驚きありという感じで感情的には本当に様々な感情が起こる本だと思います。彼はコメディアンだから色々なエピソードを面白おかしく話すことがとても上手なので笑ってしまうところは本当にたくさんあるのですが、その間には彼自身の怒りや絶望感や混乱を感じ取ることができます。アパルトヘイトという納得できない状況のもと、彼は許されていない白人と黒人の間に生まれた子供でタイトルの通り、生まれた時からその存在が犯罪ということなのです。また許されていないことなので自分と同じ境遇の子供に会うことはほぼなく、白人にもなれず黒人にもなれず、自分のアイデンティティーを共感する人もいないというのは辛いことだと思います。しかし、だからこそ彼はいろんな地域の言葉を覚え、どこのグループにも属さない代わりにどこのグループでも打ち解けられるカメレオンのような技術を身につけたのだと思います。そして人を笑わせることもその過程で重要な要素だったと思います。彼は子供なりに直感として自分がどこにも属さない人間だからこれからどのようにしてうまく生きていくべきかということがわかっていたのかもしれません。
また本の中で彼はアパルトヘイトについて説明をしています。私たちも歴史の授業で南アフリカでアパルトヘイトがあったということは学びましたがその詳細を学ぶことはなく、遠い国の歴史の一部としてしか捕らえていない人が多いかと思いますが、彼の説明や生い立ちを読むと、アパルトヘイトというのがどのような政策でどれほど精密に考え抜かれた占領政策かということがわかります。本の初めにこう書かれています。”The Genius of apartheid was convinving people who were the overwhelming majority to turn on each other. Apart hate, is what it was. You separate people into groups and make them hate one another so you can run them all.” このQuoteからもわかるように政府は現地人の怒りが自分たちに向かわないように現地人同士を対立させようとします。その一環として国として共通の言葉を教えずに地域の言葉だけを教えて現地人がお互いに理解できないようにしたと書かれています。トレバーノアは言語というのは非常に大切でその土地の言葉を話せるとお互いを理解できるのと同時に自分たちの言葉を話せるんだという仲間感が生まれてトラブルを防げるというようなことを言っています。彼はどこにも属すことのできない身だからこそ様々な地域の言語を学び、いろんな人たちとうまくやっていけるように一種の防御策として言語を学んだのだと思います。実際、いろんな地域の言語を少し話せるというだけで彼は様々なトラブルを避けることができました。
また彼のお母さんがすごいキャラクターで、自分というものをしっかり持っていて、周りに惑わされることなく自分の信じた道を突き進むタイプの女性であり、アパルトヘイト下でも諦めることなく我が道をいくところがすごいなと思いました。彼はこのお母さんだったからこそ賢く世の中を生きていくことができたのだろうなと思いました。そして最後の章では彼のお母さんへの愛情が溢れ出ていて涙が出ました。ずっと二人で頑張ってきたこと、一緒に笑って怒って、いろいろなことを乗り越えてきたこと。そして子供の時にはわからなかったお母さんの行動が大人になって少しわかってきたこと。色々な感情が最後の章で溢れ出てきました。
トレバーノアも言っているようにその状況の中にいない人はなんでその状況から逃げ出そうとしないんだと言いますが本人にはそれぞれ理由があり、悪い状況から逃げ出すことは周りがいうほど簡単じゃないということも多々あるということです。例えばGhettoに住んでいるとギャングやドラッグが日常で、外部の人はそれが嫌ならそこから出ればいいじゃないと簡単に言いますが、そこで生まれて育ったGhettoしか知らない人は抜け出し方がわからないまたは少し成功すると周りが足を引っ張るとうようなことも書いてありました。確かにちゃんとした教育も受けられず周りにいる大人が抜け出し方を教えてくれるわけでもなく、政府が助けてくれるわけでもないとなるとそのような環境しか知らない人たちには何をどうしたらいいかも全くわからないのだろうと思います。
この本は是非たくさんの人に読んでもらいたい本だなと思いました。南アフリカはもしかしたら日本人にとって今まであまり身近に感じたことのない国かもしれませんが、この本は南アフリカのことだけでなく、家族のこと、友達のこと、貧困のこと、歴史や政策、青春のこと、などたくさんの要素が詰まった密な本です。トレバーノアというコメディアンがどのような生い立ちを経てきたのかを知ることができるし、またこの生い立ちがあるからこそ彼のコメディがあるのだということも理解できると思います。あの厳しい生い立ちを乗り越えての今の成功は本当に奇跡的というか、よかったなあと思いました。この本を読んだ後なぜか彼をハグしたい気持ちになりました。面白おかしくいろんなエピソードを書いたり話したりしているけどきっとたくさん傷ついてきただろうし、心の中にはたくさん怒りもあったと思います。よく頑張ったねって言ってあげたい気持ちになりました。(なぜか上から目線ですみません。)
この本は私にとって本当に目から鱗というかアパルトヘイトというか占領を違った目線で見ることのできたいい機会でした。考えさせられるQuoteもたくさんあって、ここですべてを紹介することはできないけど一つなるほどとおもったQuoteを載せておきます。”We tell people to follow their dreams, but you can only dream of what you can imagine, and, depending on where you come from, your imagination can be quite limited.”
彼にはこれからも笑いを通して世の中の矛盾や差別を伝えて言って欲しいと思います。そしてこれからも彼を応援していきたいです。
日本語訳も出ているみたいなので日本語で読みたい方はこちらをどうぞ。