“The End of Loneliness” by Benedict Wells
⭐️⭐️⭐️⭐️(4つ星)
今回はBenedict Wellsの”The End of Loneliness”です。この本は原作がドイツ語だからかブックチューブなどではあまり話題になっていない本なのですが、ドイツでは人気の本らしく(The European Union Prize for Literature)、知り合い二人からオススメされたので読んでみました。
あらすじは主人公Julesの幼年期から成人して小学生の子供を持つまでの間、約30年間ぐらいの物語が主人公の目を通して語られていくというスタイルです。Julesは子供の時に両親を事故でなくし、姉と兄と一緒に寄宿学校に送られます。同じ寄宿学校とはいえ年齢の違いから兄弟とは違う建物に住むことになったJulesが成長していく過程で経験する(または過去からくる)悲しみや孤独、そして友情や愛情が書かれています。
物語はとても暗く、気の滅入るような話なのですが、どこかにほんの少しの希望も見出せるような作品で個人的には割と好きなだと思いましたので4つ星になりました。
この作品は内容の割にページ数が少ないので色々なことが次々に起こり、暗いけど飽きることなく読み終わることができました。しかし濃い内容だけにもしかしたらもっとページ数を増やして様々な状況をもう少し深く掘り下げて書いた方が各キャラクターをもっと理解することができたのではないかと思ったりもしましたが、この短さだから読み切れたのかもしれないという気持ちもあり複雑なところです。
ページ数と関係するかどうかはわかりませんが私は登場人物に深く感情移入することはなかったのですが、それでもやはり悲しい場面では悲しくなるし、心温まる場面ではほっこりした気持ちになるのでこれがもし主人公に深く感情移入していたらもっと評価は上がっていたかもしれません。またいくつか疑問に残る場面もあり、この部分は何かもっと深い意味が隠れているように思うので、作者や他の人の意見も聞いてみたいと思いました。
この作者の作風や描写は素晴らしいと思うし文章が美しく、いくつか気に入った文章も見つけたので、彼の文体はきっと私の好みの文体なのだろうなと思いました。作者は37歳と割と若く、これからもっといろんな作品に期待したいです。
この作品は全体的に悲しみや孤独そして鬱などのメンタルヘルス問題をテーマにした作品だと思うのですが、読みながら考えたのは子供の頃に経験したトラウマ的な経験はやっぱりどうしても将来のメンタルヘルスに高い確率で影響を及ぼしてしまうものなのかなあと思いました。周りに愛する人もいて、幸せな生活を送っていてもやはり心の奥底にある孤独はふとした時に表面化してしまい、自分の意思とは裏腹に人の心を脅かしてしまうのかもしれません。
作中のAlvaも言っていたように自分でもどうしてこうなのかわからないというように心から幸せになりたいと願っていてその条件も揃っているにも関わらずどうしても幸せになれないというのは本人もそして周りの人にも苛だたしい状況だと思いました。そしてそれは誰がどんなに頑張ってもそう簡単に変えることのできない大変難しい問題であるということ。そこにやるせなさを感じます。(これは”A LIttle Life”を読んだ時にも感じました。)
全体的に暗くて重たい作品ですが、友情や兄弟愛もたくさん書かれており、最後には少しだけ希望も感じることができたのが救いでした。軽々しくお勧めできる作品ではありませんが、重い話が読みたい方は是非読んでみてください。
残念ながら日本語の翻訳はまだ出ていないみたいです。